森 鴎外の文学作品が秀作と評価される所以

 森 鴎外という人物名を聞いたとき、読者の方々におかれましては、どんなイメージが頭に浮かぶでしょうか?おそらく、「堅苦しい」「気難しい」あるいは読んだことがないから「わからない」とお答えになる方が多いのではないかと思います。鴎外は明治時代に活躍した人物であり、彼の書いた作品は今から100年ほど前に出版されたものがほとんどです。そのころの日本は戦争に巻き込まれている最中だったこともあり、鴎外の作品も時代の雰囲気に影響を受けています。


幼いころから学業に秀でていたらしく、6歳のときに「論語」を学びます。当時のことですから、もちろん漢文も教わっていたことでしょう。その後も学業を怠ることなく13歳で医学校に入学します。この頃には漢文で論文を書き、雑誌に寄稿していたといいます。そして、ドイツ語もできたといいます。鴎外について語るときに「医学」という単語は外せません。戦争中は軍医として活動していました。まさに、エリートといえます。じつに、羨ましい。私は彼とは比べ物にならないほどの低学歴です。


私の学歴の低さは置いておくとして、鴎外はただ勉学ができただけではなく文学の才能もありました。現在の義務教育課程における国語や日本史の授業で「文学者」として紹介されるくらいですから、余程の活躍ぶりだったのでしょう。私の手元にある資料には彼が残したエピソードが数えきれないくらい掲載されています。医学者として活動していた一方で文筆活動に取り組んでいたので、彼の作品が医学の影響を受けているのは間違いありません。一つひとつの文が正確で、物語が緻密に組み立てられています。表現を変えると、「堅苦しい」ということもできるでしょう。

おすすめ書籍1

途中ですが、おすすめ作品を紹介致します。

[block]雁 (新潮文庫)

雁 (新潮文庫)

 

 代表作です。鴎外の都会人らしさが作品に現れています。彼の作品を読まれたことのない方にぜひおすすめしたい作品です。

 

文体

文章の態度にはぶれがありません。ちょうど、日本刀を両手で持って構えたところをイメージしていただければよいかと思います。一文一句が文字通り真剣そのものです。ファンの方におかれましては、鴎外のこの一本気なところを好いておられる方も多いのではないでしょうか。また、気が荒くなることはなく、終始落ちついています。感情をコントロールする力の強い人なのではないかという印象をもっておられる方も多いと思います。

物語の一貫性

作家を2通りのタイプに分けると、一度に書き上げてそのままほとんど修正しない型の人と書き上げてから推敲を重ねて作品の質を高めようとする型の人がいるといいます。鴎外は前者のタイプで、書き上げた原稿をほとんど修正なしの状態で出版社の担当者へ提出することがあったようです。堅苦しく気難しいのに、一筆書きクラシック音楽にたとえるなら、ブラームスモーツァルトの良いところ取りというような才能であり、信じられないくらいな能力なのですが、鴎外にとっては普通だったようです。しかも社会活動を怠ることなく執筆していたのですから、彼の経歴にはただただ驚かされるばかりです。


肝心の中身はというと、物語が途中で破綻することはなく、当たり前のようにストーリーが進行し、場面が切り替わり、ミスなく完結します。この3ステップが小説を書くためにどれだけ難しいことかは、他の作家の作品を読んでいれば明らかなのすが、鴎外は大して苦しんだ様子も見せずに当たり前のように成し遂げるわけです。だから、まずストーリーがどうかという問題を論じようとする前に、筆者の持つ頭脳の緻密さに驚愕させられるはずです。ストーリーについて述べるなら、特に変わったところはないといえると思います。他の優れた作家と大した違いはないと思います。大人らしく、分別があり、攻撃的な表現が控え目で、読んでいていて心が落ち着きます。(これも鴎外の作品における特筆すべき美点です。)

日本文学史上における鴎外の存在

私はそれほど多く日本人の書いた文学作品を読んできたわけではありませんが、鴎外について思うのは、彼の筆の正確さは文学史上で並ぶ者がほとんどいないといえるほど稀ではないかということです。言葉というのは短くなればなるほど表される意味が曖昧になり、この曖昧さによる含みによって神秘さが生じるといいます。和歌が芸術となりうるのはこのためで、日本人だけとはいわず世界中の人々が詩の中に様々な世界を創造します。鴎外はこの曖昧さによる世界を一旦完結させたのではないでしょうか。

おすすめ書籍2

[block]山椒大夫・高瀬舟 (新潮文庫)

山椒大夫・高瀬舟 (新潮文庫)

 

 すでに鴎外の作品を読んだことがある方には高瀬舟をおすすめ致します。彼の内面の暗い部分があらわれています。文量は多くありません。山椒大夫ももちろん素晴らしい作品です。