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クリスマスに関連する情報を管理する事務所はフリーアドレス型となっている。会社に来たい者は出てくればよいし、家で仕事したい者は無理に出てこなくてもよい。大方は会社にやって来る。広大なスペースが準備されていて、食堂や仮眠スペースもある。熱を上げ過ぎてしまい、自宅へ帰るタイミングを逃した者は、そのまま寝泊りする。会社に居残るサンタクロースは大勢いて、この中には、単純に共同生活が自分の性分に合っているという理由から家に帰らない者もある。酒を社内で飲む事は禁止されていて、持ち込んでいることが見つかるくらいなら良心的に解釈されるけれど、飲んでいることが発覚した場合には、容赦なく罰せられる。仮眠するための寝酒すら赦されない。敷地内の至るところに監視カメラが設置されていて、不審な者を調査する部隊もある。年間を通して、会社内では様々なイベントが催され、多くのサンタクロースが集れば、なかには飲みたがる者もいる。見つかると、背後から静かに肩を叩かれて、暫くの間は、社内のイベントに参加してはならない事と勤務時間外は会社に居残ってはならない事を告げられる。酒類はその場で没収される。
自宅でばかり作業する者の中には、ほとんど会社へ行かない者もある。しかし、彼らは社内で孤立しない。定期的に会社のシステムにログインしていれば、遅滞なく業務を遂行できるようになっている。システムによって各々の能力が管理されていて、まだまだやり足りない者にはどれだけでも雑務が与えられ、消極的なものには最低限の仕事が与えられる。知能が高く向上心のある者には高度な雑務が与えられ、仕事に対してクールな者には必要な業務が与えられる。
ランドが自宅へ帰って取り組んでいるのは、小説を書くことである。そして、出来上がった作品を会社のシステムにアップロードしている。不断滅多に会社へ行かないので、ネットワークの中で知る人ぞ知る人物であるものの、たまに敷地内に入ったとして、声を掛けられることはほとんどない。出社するときには、なるだけ目立つことがないよう地味な格好をして、高価な品物は身につけない。食堂や交流施設にはどうしてもというほどの用事がないかぎり立ち入らず、目的の場所へ直行し、必要な取引を済ませ、終われば寄り道せず帰る。最新の施設や話題になっている場所には、いきなり飛び入ろうとせず、遠目で眺め、一旦自宅に戻ってある程度の情報を集めてから、人の少ない日時を見計らって参上する。そうして、後日ゆっくり見てまわる。小説を書くために、気晴らしの目的も兼ねて、外の世界を観察する。今書いているのはファンタジーで、物語中にはドラゴンや妖精が登場する。地球が舞台となることもあり、人間が現れて、妖精と戦うこともある。星や月が空で輝き、兎が月で餅をつく。独りきりで小説を書き続けることはランドにとってキツいことであり、会社のシステムを利用することによってなんとか創作できている。有難くも何人かに読まれており、物語を通じて誰かとコミュニケーションしているような不思議さを感じることができる。将来について云えば、今よりも文章をまともに書くことができるようになって、何かが切っ掛けとなり、読んでくれる人から、「うちの子どもがランドさんの小説を読んで、学校へ行くようになりました」とか「ランドさんの小説を読んで、また外に出て働こうと思い、今は何とかアルバイトすることが出来ています」というようなメッセージを受けたいくらいだと思っている。彼からのメッセージが記されてある手紙やパソコンのモニタを想像しては鉛筆を握り、物語を書き進めている。そうして、書きたいという心持ちになれないけれど何か書いた方がよいと思い、渋々書いた文章で、且つ自分が後で読み返してまずいと感じる物ができることもある。ランドは悪い物が出来上がった時こそ、何構わず作品をアップロードする。自分の性分を他人に分かってもらうためには、不出来な作品を発表するのが手っ取り早い。また、手の込んだ修正をしていないがために、自分の意見が相手に伝わりやすい。調子が悪い時こそ物語を書き進めたい、とランドは思っている。